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札幌地方裁判所 昭和60年(わ)337号 判決 1985年9月06日

主文

被告人株式会社新和企業を罰金二、〇〇〇万円に、被告人株式会社新和総業を罰金六〇〇万円に、被告人Aを懲役一年に処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社新和企業(以下「被告会社新和企業」という。)は札幌市東区伏古五条三丁目四番二五号に、被告人株式会社新和総業(以下「被告会社新和総業」という。)は北海道石狩郡当別町字西小川通五四番地にそれぞれ本店を置き、いずれもぱちんこ娯楽遊技場の経営を主たる目的とする資本金一、〇〇〇万円の株式会社であり、被告人Aは右各被告会社の取締役として実質上右各被告会社の業務の全般を統括しているものであるが、被告人Aは、右各被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上げの一部を除外して架空人名義の簿外預金を設定するなどの方法により所得を秘匿したうえ

第一  昭和五七年六月一四日から昭和五八年五月三一日までの事業年度における被告会社新和企業の実際所得金額が一億二、四八八万六、六四三円であったのにかかわらず、昭和五八年七月二九日、札幌市東区北一六条東四丁目一二番地一一所在の同被告会社の所轄税務署である札幌北税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三、四〇六万五、九二一円でこれに対する法人税額が一、二六六万三、八〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同被告会社の右事業年度における正規の法人税額五、〇七六万三、六〇〇円と右申告税額との差額三、八〇九万九、八〇〇円を免れ

第二  昭和五八年六月一日から昭和五九年五月三一日までの事業年度における被告会社新和企業の実際所得金額が八、六九二万九、四一九円であったのにかかわらず、昭和五九年七月三〇日、前記所轄札幌北税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三、九九二万七、一〇七円でこれに対する法人税額が一、六〇七万二、六〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同被告会社の右事業年度における正規の法人税額三、六四一万五、四〇〇円と右申告税額との差額二、〇三四万二、八〇〇円を免れ

第三  昭和五八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社新和総業の実際所得金額が五、〇三九万八、四七四円であったのにかかわらず、昭和五九年二月二九日、同被告会社の所轄税務署である前記札幌北税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四二万二三〇円でこれに対する法人税額が八万九、〇〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同被告会社の右事業年度における正規の法人税額二、〇一七万二〇〇円と右申告税額との差額二、〇〇八万一、二〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)《省略》

(法令の適用)

被告人Aの判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項に該当するので、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年に処する。そして、被告人Aの判示第一及び第二の各所為はいずれも被告会社新和企業の業務に、判示第三の所為は被告会社新和総業の業務に関してそれぞれなされたものであるから、両被告会社に対しては法人税法一六四条一項により判示各罪につき同法一五九条一項の罰金刑が科せられるべきところ、いずれも情状により同条二項を適用し、その金額の範囲内で(被告会社新和企業については、判示第一及び第二の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪の罰金の合算額の範囲内で)被告会社新和企業を罰金二、〇〇〇万円に、被告会社新和総業を罰金六〇〇万円に処することとする。

(量刑の事情)

本件は、二つのぱちんこ店の実質経営者である被告人Aが、両被告会社に関し、約二年間延べ三事業年度にわたり、合計一億八、七〇〇万円余の所得を秘匿し、合計七、八五〇万円余の法人税を免れた事案である。ほ脱額は右のとおり巨額であって、そのほ脱率も被告会社新和総業については九九・五六パーセント、平均でも七三パーセント強の高率にのぼる。被告人Aは、昭和五三年四月から実父の創業にかかる石狩郡当別町所在のぱちんこ店「娯楽センター」(後の被告会社新和総業)で働くようになり、昭和五四年四月ころからは実父に代わり同店の業務全般を事実上統括するようになったが、昭和五六年ころからいわゆるフィーバー機ブームによりぱちんこ業界が爆発的な好景気をむかえ、予測をはるかに超える収益が得られるようになったところから、昭和五七年六月に新しく被告会社新和企業を設立して札幌市内に「プレイランドハッピー」を開店し、また同年一二月には前記「娯楽センター」を個人経営から法人経営に切り替えることとして被告会社新和総業を設立し、その当初から何らためらうことなく平然と不正を開始し、自らあるいは従業員に命じて、玉貸機に接続して自動的に売上げを記録するコンピューターの作動を一定時間止めたり、売上金の中から直接現金を抜き取ったりするなどの方法で、同被告人自身が認めるところだけでも、各被告会社につき毎日二〇万円くらい、多い日には一日一〇〇万円くらいを売上げから除外したうえ、簿外で開設した一〇〇口以上もの仮名又は無記名の預金口座に入金して貯蓄したり、自己や家族の名義で国債や債券を購入したりなどして所得を隠ぺいしていたものであり、その手段、態様は大胆かつ巧妙で極めて悪質といわなければならない。更に、犯行の動機についてみても、同被告人は、不況時に備え、あるいは同業者との競争に勝ち抜くため隠し財産を作っておこうと考えた旨供述するが、つまるところそれは私利私欲を追求し自己の利益を拡大することに帰するのであって、格別斟酌すべきものとはいえないばかりか、不正の発覚を免れるため売上げ除外や所得隠しの方法を種々変えてみたり、出入りの換金業者らに働き掛けて所得を少なくみせようと工作したりするなど金もうけのためには手段を選ばないといった強い犯意を見て取れること、脱税する一方で、両被告会社とも青色申告の承認を得て税法上の優遇措置を受け、また隠し資産の多くをいわゆるマル優預金の形で保有して資産隠しにおいても税法上の特典を享受していたこと、関係証拠によると同被告人は本件以前にも本件同様の不正行為を繰り返していたことが窺われること等をも併せ考えると、犯情も悪質である。いうまでもなく、租税は所得のある者がその担税力に応じてひとしく負担すべき義務であるところ、申告納税制度は納税者の良心と良識とを尊重して採用されているものであるから、所得を偽り、不正に税を免れる行為は誠実な納税者等を被害者とする反社会的かつ反道徳的な犯罪ということができ、また、かかる所為は大多数の善意の納税者の納税意欲をはなはだしく阻害させるものであって、社会に及ぼす悪影響も著しいといわざるを得ず、右行為を意図し実行した者の刑事責任は厳しく追及されなければならない。してみると、本件においては、違反に伴う修正本税、重加算税、延滞税等総額二億二、八五一万三、一三〇円が既に納付済みであること、被告人Aの反省の情など弁護人の指摘する種々の情状を最大限考慮してみても、前記本件の規模、態様、犯情に照らし、同被告人については実刑を免れず、両被告会社についても主文程度の各罰金刑はやむを得ないものと思料する。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告会社新和企業につき罰金二、〇〇〇万円、同新和総業につき罰金六〇〇万円、被告人Aにつき懲役一年四月)

(裁判長裁判官 鈴木勝利 裁判官 江藤正也 石田裕一)

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